ここでは、ルーペ(虫眼鏡)やレンズに関する豆知識、雑学、当店が凸レンズメーカーを母体を持つからこその四方山話など雑多にご紹介したいと思います。ルーペ(虫眼鏡)を選ぶ際に知っていると得をするかも?いや、そうでもないかな...
「用途から探す」「ルーペの使い方」などのコンテンツの補足や余談を集めたライブラリ的位置づけのページでもあります。
ルーペの材質やレンズ構成、フレームの塗装などにより、見え味や価格はそれぞれ違ってきます。折角なら、なるべく見やすくていつまでもきれいに使えるルーペを手に入れたいですよね。 見え味を取るか、価格を取るか、耐久性をとるか...ルーペを選ぶ際に必要になる、ルーペを形作るそれぞれの要素についての豆知識も簡単にお伝えできればと思います。
「虫眼鏡」と「ルーペ」の(表記の)違い
皆さんは「虫眼鏡」と「ルーペ」ってどう違うと思いますか?
違う言葉なんだから、違うモノなんじゃない?使い方が違うとかさ。「虫眼鏡」は見たいものにレンズを当ててピントが合う場所まで目を近づける、「ルーペ」は目とレンズを当てて見たいもの自体を動かすとか...。
いえいえ、使い方は倍率の問題だけなので、言い方には関係ありませんよ!
結論から言うと、「虫眼鏡」と「ルーペ」は同じものです。
「ルーペ」とは、元々はドイツ語(Loupe)で、日本語に訳すと「拡大鏡」、市民権のある言い方だと「虫めがね」です。
ちなみに虫眼鏡の語源は「江戸時代に凸レンズを円筒につけて、筒の中に虫などを入れて観察したことから」とも「大相撲の番付表の細かい文字から」とも聞きます。うーん、どちらにしろ江戸時代からの言い方のようですね。お年を召された方だと「天眼鏡」と呼ばれる方もいらっしゃいますが、これは望遠鏡の古い言い方から来ているようです。(ちなみに英語だと「Magnifying glass(マグニファイング グラス)」といいます。)
言葉の意味としては、総じて拡大して見ることが出来る「凸レンズ」を使った道具って感じでしょうか。
要するに 同じものを差しているけれど、言語が違う というだけなんですが...イメージはけっこう違いますよね。
- 「虫眼鏡」は柄が付いている大きいレンズの家庭用(パッとかざしたら拡大できる=倍率が低くて扱いやすい)。
- 「ルーペ」は専門的な高倍率の拡大を必要とする仕事用(使用方法・形状は様々)。+なんか高級そう。
上記のようなイメージで市民権を得てしまっている気がします。
正直なところ表記が揺れるとややこしいので(認知度は低いかもしれませんが)広く使えて業界的にポピュラーな「ルーペ」という言い方に統一させたいところなのですが...ただ、「ルーペ」はユーザーの皆さまにとって縁遠い言葉かもしれませんし、イメージが付いてしまっている以上は仕方ありません。このコンテンツでは「低倍率の普段使いのルーペ」に関しては「ルーペ(虫眼鏡)」と書かせていただいています。ただ、お仕事用の特殊な用途の拡大鏡に関しては単に「ルーペ」と書いています。
「ルーペ」と書いてあったら要するに「虫めがね」のことだなーと思って下さいね。
虫眼鏡とルーペの違い
- 虫眼鏡:日本語
- ルーペ:ドイツ語
「虫眼鏡」と「ルーペ」は日本語かドイツ語かという違いだけで、同じもの。(凸レンズを利用した拡大するための道具)
ただ、それぞれに「虫眼鏡=手持ちタイプの低倍率」「ルーペ=専門性の高い高倍率」といったイメージが付いてしまっています、というお話でした。
「ルーペ(虫眼鏡)」と「老眼鏡」の違い
「ルーペ(虫眼鏡)」と「老眼鏡(リーディンググラス)」ってどう違うと思いますか?
どっちも老眼になったら使うイメージねえ。手で持つか目にかけるかの違いだけじゃないの?
いやいや、実は違うんです。時々混乱されている方がいらっしゃるのですが、ルーペ(虫眼鏡)は老眼鏡ではありません。老眼鏡もルーペも目と関わる道具であり、近くを見る時に使用する道具ではありますが、作用も役割も異なる全くの別物です。
まずは2つを比較してみましょう。
- ルーペ(凸レンズ)
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ルーペとは見るものを大きく見せる(大きな虚像をつくる)ことによって、小さい文字や物を見やすくする道具です。見たいもの自体を大きく見せているだけ(スマホの画面を指で拡大するようなもの)というイメージですので、目の機能自体はいじりません。
あくまでも「対象物を拡大して見せる」ことが出来るだけであり、眼の機能が落ちた方の視力矯正(ピント合わせ)をすることはできないんですね。
※ルーペのメーカーである弊社は眼科の資格を持っていません。
そのため、「ルーペ」と「老眼鏡」との見え方の比較は出来ず、また「ルーペ」を本質的な「老眼鏡」の代用品として使うことは出来ません。
ある程度は使えたとしても、ピントがあっていないボケた状態で拡大してしまっていることになりますので、あんまり目に良くはないのです。
- 老眼鏡(凸レンズ+目の状態次第では凹レンズとの兼用)
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老眼鏡とは、目のピント調節(=視力調整)を手伝うための道具です。手を伸ばさないとピンぼけになる文字を、手元に近づけてもピントが合うようにしてくれます。目の中のズレた像を、レンズを通して直接網膜上の正しい位置に動かしてピント合わせしている、というイメージですね。
※度数が固定された既成老眼鏡ではない老眼鏡を扱うには眼科の資格が必要になります。
老眼鏡は「ピント合わせ」をすることによりボヤけた視界をハッキリさせ、視力を矯正することが役目です。老眼による眼の機能低下(肉眼でピントを合わすことが難しい状態)を補正・矯正するために、50cm~100cm離れた所でピントが合う用に設計されています。
しかし「ピント合わせ」だけでまかなえる視力の矯正にも限界があります。そして、いくらハッキリ見えていたとしても小さい文字は小さいままですよね。
- ルーペ(虫眼鏡)と老眼鏡を併用しよう
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というわけで、ルーペ(虫眼鏡)と老眼鏡はそれぞれだけでは力不足になる場合があるのですが、そんな時は「両方とも併用する」事が大事になってきます。
老眼鏡だけでは読めなかった小さな文字をルーペも併用することで判別できたり、ルーペだけではボンヤリしていた文字を老眼鏡もかけることでクッキリと見ることができたり、ということですね。
全く別の部分に働きかける道具(対象物を大きく見せる&目のピント調整)だからこそ、特にデメリットなく簡単に併用することができます。
併用すれば、足りない部分を補い合って、よりスッキリとした拡大像を見ることができますよ!
ルーペと老眼鏡の違い
- ルーペ=対象物の拡大
- 老眼鏡=目のピント調整
ルーペと老眼鏡は全く別の所に働きかける道具。だからこそ競合せず、簡単に併用ができる。
ルーペと老眼鏡の作用が違うということは、様々な理由から目の機能の調整が難しく眼鏡での視力アップが望めない方でも、倍率の高いルーペを使うことで「おぼろげながら像を掴むことが出来た」といったことが起こり得るということでもあります。
基本的にはルーペと老眼鏡は併用をおすすめしたいのですが、老眼鏡を忘れたり装着できない状況下では、もちろんルーペを代用品として活用することもできます。老眼鏡を付けたり外したりって面倒くさいですもんね(^^;)
ご自身の使いやすいシーン別に、それぞれ便利にご活用下さいね
虫眼鏡と老眼鏡を併用した時のピントの合う距離
ヘッドルーペや眼鏡タイプのルーペなど、頭や顔に装着するタイプのルーペだと老眼鏡の上からルーペをかぶせることになります。
その場合、老眼鏡の度数がルーペの倍率に加算されるため、ピントを合わすためにルーペと対象物との間の距離を通常(裸眼時)より短く保っていただく必要があります。(老眼鏡を単発でお使いの時よりもお顔を対象物に近づける必要があります。)
老眼鏡の「度数が強い」とは「ピントが合う距離が近い」ことを意味しますので、老眼鏡の度数が強い人ほど、より対象物に顔を近づけていただかないとピントが合わない、ということになります。(そこがネックなんですよね...)ルーペの倍率によっては姿勢が辛くなる可能性はありますが、ピントさえ合わすことができれば、より大きくハッキリものを見ることができます。
ただ、やっぱりピントの合う距離が長い方が「姿勢が楽」で見やすいので、(目の状態にもよりますが)老眼鏡を外した方が見えやすくお感じになられる場合も多いかもしれません...。※近視用の眼鏡をお使いの場合は、凹レンズのために逆にピントの合う距離は長くなります。
そもそも、老眼とは?(屈折異常について)
本を読む時やスマホの画面を見る時、つい手を伸ばして目から離してしまっていませんか?眼からの距離が「30cm以内」のものが見づらくなってきたら、老眼のスタートサインと言われています。
「近くのものが見えない」という症状自体は有名ですが、そもそも「老眼」って目の中がどうなってどういう風に見づらくなってしまっているのでしょう?ちょっと目をレンズに見立ててみてみましょう。
「老眼」とは、加齢にともない目の中の筋力が落ちて(=水晶体が動かなくなって)、目に本来備わっているピント調節機能が働かなくなり近くが見えづらくなる(=ピント合わせができない)、という症状です。
ルーペ屋っぽく水晶体の働きを「凸レンズ」として見てみると、実に上手い事ピントを合わせてくれていることに驚きます。
普通ならピントを合わせたい距離に応じて、レンズを別々に用意しなければいけません。しかし、目の中の「水晶体」というレンズだと、自身の厚みを自由に変化させることにより、遠くも近くも自由自在にピントを合わせてくれるのです。
ですが、そんな素晴らしいレンズが上手く働かなくなってしまうことがあります。それが「老視(老眼)」「近視」「遠視」「乱視」の4大眼の屈折異常(焦点が合わない状態)です。
それぞれ「眼が悪い」と言われる症状ですが、それぞれに屈折異常を起こしている眼の中の状態は異なります。
- 老視(老眼)
近くのものを見ようとしてもぼやけてしまう症状。
老化などにより水晶体の調節能力が低下し、近点が遠くなる(網膜より奥の位置で結像してしまう)。遠点は無限遠のままなので、遠くは良く見える。凸レンズで矯正(近点を明視の距離25cmに近づける)。
- 近視
遠くのものを見ようとしてもぼやけてしまう症状。
遠点が無限遠になく、(50cmなどの)ごく近距離になってしまっている。遠くの物体から眼に入った光は網膜上に像を作らず、網膜より近い位置で結像してしまう。凹レンズで矯正(遠点を無限遠にする)。
- 遠視
近い・遠いに関係なく、焦点が合わずぼやけて見える症状。
水晶体の厚さが無調整の状態で、ものがはっきり見える遠点がない。遠くを見ている場合にも近くを見る時の様にピント合わせの筋肉を緊張させていないといけないため目が疲れやすくなる。凸レンズで矯正(遠点を無限遠にする)。
- 乱視
モノが二重に見えたり、方向によって見え方が違う症状。
眼の角膜の屈折力が、縦と横方向で異なるため、非点収差と同じ現象が起きる。シリンドリカルレンズで矯正(角膜の縦と横方向の屈折力のずれを揃える)。
こんな感じで、原因が異なる以上、遠視または近視+乱視+老眼という三重苦(片眼ずつ別々の症状があったら更にややこしい)もあり得ます。
元々「近視」や「遠視」「乱視」で視力が悪かった方が「老眼」になると、手元を見る時とパソコンを見る時と遠くを見る時で眼鏡をかけ替えたりが必要で面倒なんですよね。(かくいう私も近眼と乱視持ちです...)
眼鏡の扱いが面倒な時には「老眼」的部分はルーペ(虫眼鏡)も併用しながら、少しでもストレスのない視界で過ごしましょう!
また、強い遠視や強い乱視を生まれ持った方は「網膜に映った映像を脳で処理する」という目の発達に必要な訓練をできないまま視力の成長が止まってしまう「医学的弱視」と呼ばれる低視力の状態になることがあります。(強い近眼の場合は、遠くは見えるのでそこまで深刻にならないことが多いそう。)
この場合は、目を有効に使うための脳の訓練ができなかった=「見る」という動作に関する脳の制御の問題なので、目の屈折の状態を補正する「眼鏡」は有効でない場合も多いのです。
そんな時、高倍率の「ルーペ」が威力を発揮します。
弱視の方にご愛用いただいている高倍率のルーペについてはこちらのコンテンツをご覧ください。
虫眼鏡(凸レンズ)の歴史
「レンズ」の語源ってなんだと思いますか?実は「お豆」から来ているんですよ!
西アジア(中東)を原産とする「レンズマメ」というお豆が語源です。レンズより豆が先だったんですね。
インド料理やイタリア料理、フランス料理でよく使用されるお豆の一種ですが、日本ではまだまだ馴染みが薄い豆です。和名は「ヒラマメ」って言うらしいのですが、実はスタッフNも聞いたことありませんでした。
旧約聖書にもエジプトの古代文明にも登場する、紀元前数千年前からの食品のお豆がなぜ「レンズ」の語源になったかというと...形なんですね。よく見ると中央が膨らんでいて端が薄い→凸レンズそっくりです。
現状で確認されている世界で最古のレンズは、現在のイラク北部にある遺跡(ニムルド)で見つかった紀元前800~900年頃のものと思われる「水晶製のレンズ」だそうです。
出典:大英博物館 The Nimrud Lens / The Layard Lens縦幅4.2 cm×横幅3.45 cm×厚み0.64 cm(中心部) / 焦点距離は11.4cm、平凸レンズの形状
「ものを拡大するため」に作られた訳ではなく、装飾品としてつくられた中での偶然の産物だったのでは...というのが通説らしいです。
きっと初めて「凸レンズ(の形の効用)」を発見した人々は「なんかこれ透明なレンズ豆っぽいぞ!」って思って「レンズ」と呼ぶようになったのでしょうね。
それ以降、ユーラシア大陸の古代文明ではレンズは主に「着火用」の道具として用いられ、イスラム教圏で発展、少し経ってからキリスト教圏へ拡大鏡・老眼鏡として伝わっていきました。
1200年代~1500年代は、イタリアなどでレンズの素材としてのガラス製造は発展しましたが(ベネチアングラスは今も有名ですね)、用途としては「拡大鏡・老眼鏡」以上には応用されなかったようです。「老眼」は神の与えた耐えるべき試練だから、便利な道具なぞ悪魔の道具でしかないわ!という考え方が発展を邪魔していたそうな...。
さて、レンズの歴史として精密な光学製品が登場するのは、17世紀目前の1590年頃になってからです。オランダのメガネ屋さんのヤンセン親子が「2枚のレンズを重ねると1枚の時よりも更に大きく拡大できる!」という発見をし、複式顕微鏡の走りのような道具をヨーロッパに広めました。ただ、最初は高級な工芸品扱いだったようです。
そこから複数のレンズ「対物レンズ」「接眼レンズ」を利用した「望遠鏡」「顕微鏡」(どちらも対物レンズでつくられた対象物の実像を、接眼レンズで更に拡大された虚像として見る造りになっています)が次第に歴史の表舞台に現れてきます。
- 紀元前800~900年頃
- エジプト、ギリシア、メソポタミアなどで水晶・緑柱石などの鉱物をレンズの形に磨いたものが装飾品として用いられる
- 1世紀頃
- セネカ(古代ローマの哲学者)が鉱物を通すと物を拡大して見られることを記述
- 2世紀頃(100年頃)
- プトレマイオス(ギリシャ)が凸レンズの性質[拡大作用・光の屈折]について記述
- 11世紀頃(1000年頃)
- アル・ハーゼン(アラビアの学者)によって光学書が書かれる[人の眼の構造・光の屈折について詳しく]
- 13世紀
- 僧院を中心に凸レンズを拡大鏡・老眼鏡として使用
- 13世紀初め(1250年頃)
- ロジャー・ベーコン(英の修道士)がレンズの実験を行い、レンズの応用が進められ、凸レンズが拡大鏡として広く使われるように
- 14世紀
- イタリアで透明なガラス(青緑色のガラス)が製造される
- 1430年代
- 知識階級・貴族を中心に凹レンズを近眼鏡として使用しはじめる
- 15世紀
- イタリアのガラス製造最盛期→イタリア製の老眼鏡・近眼鏡が世界に広まる
- 1525年
- 近眼鏡をかけたローマ法王の肖像画(ラファエロ作)
- 1590年
- ヤンセン親子(蘭のメガネ職人)、顕微鏡を発明
- 1608年
- リッペルスハイ(蘭のメガネ職人) 、望遠鏡を発明
- 1609年
- ガリレオ(伊の学者)、ガリレオ式望遠鏡(凸レンズと凹レンズの併用→正立像を作る)を製作
- 1611年
- ケプラー(独の天文学者)、ケプラー式望遠鏡の理論を発表(倍率を上げるため凸レンズ2枚使用→倒立像だが視野が広く高倍率)
- 1650年前後
- ロバート・フック(英)が複式顕微鏡(凸レンズ2枚使用)を発明。レーウェンフック(蘭)が単式顕微鏡(極小のガラス玉1つ使用)を発明。
- 1668年
- ニュートン、反射望遠鏡を製作(色収差の除去のため凸レンズと凹面鏡を併用)
- 1789年
- ハーシェルの大望遠鏡
- 1805年
- ギナン、光学ガラスを製造
- 1810年頃
- ウラウンホーファ、光学ガラスの均質性を高める。屈折率測定
- 1839年
- ダゲール(仏)、写真術の発明。カメラが登場。
- 1846年
- イエナにカールツァイス社(今も有名なレンズメーカー)創業(光の回折現象の研究で顕微鏡の発展に功績)
- 1880年
- ツァイス社のアッベやショットによって光学ガラスが進歩
- 1931年
- 電子顕微鏡の発明
- 20世紀半ば
- 一眼レフカメラの時代
大雑把にまとめると
凸レンズの発見紀元前にニムルドにて
水晶製の凸レンズ(装飾品?)の働きについて発見
- しばらくは利用価値としては「火おこし用」
利用凸レンズを置いた上から覗くと、拡大されて見えるぞ
「ルーペ」としての活用
応用凸レンズを二枚重ねたら、さらに拡大されて見えるぞ
「光学顕微鏡」→「内視鏡」「手術用顕微鏡」などに進化
発展凸レンズと凹レンズを組み合わせると、遠くのものが拡大されて見えるぞ
「天体望遠鏡」→「屈折式」「反射式」「カタディオプトリック式」など
という感じで光学製品は発展してきたようですね。
ルーペ(虫眼鏡)は比較的早い時期に、おそらく置き型のルーペとして使われたのが最初だったようです。
顕微鏡は最初は工芸品扱いだったために発展が遅れ(後に「内視鏡」「手術用顕微鏡」として花開きますが)、後発の望遠鏡の方が、人々の知的好奇心を糧に恐ろしいスピードで発展していくことになりました。
さて、世界的にはそうとして、日本にはどういう形で「凸レンズ(虫眼鏡)」は伝わり、もしくは発見され、発展していったのでしょうか?
それが、色んな文献をあたってはみたのですが、どうもハッキリしないのですよね...。オリンピックの聖火よろしくまずは「凹面鏡」での着火が「光学製品」の走りだったのだろうとは思うのですが、「レンズ」に関してはさっぱりです。
文献でそれらしい記述が出てくるのは、室町時代(1551年)にあのフランシスコ・ザビエルが大内義隆に眼鏡を献じた、というのが最初のようですが、残念ながら現存していません。実際に今でも見られる物では、京都の大徳寺大仙院に納められている室町幕府十二代将軍・足利義晴の眼鏡(象牙製の瓢箪型ケースに入れられている手持ちタイプの鼻眼鏡)が日本最古、という説が有力だそうです。
製法の渡来自体は、製品の渡来に遅れること約百年...1628年に長崎の浜田弥兵衛がジャワで眼鏡の製法を習得して友人に伝えたのが最初のようです。この製法は長崎から 大阪→京都→江戸へと伝わりましたが、製品自体は輸入品に頼っており、製造する職人はしばらく数えるほどだったそうです。
当時、存在を知られ始めたばかりのメガネには、専属の職人さんという方はもちろん居らず、水晶などの貴金属加工のプロであった飾師さんや細工師さんなどが兼業で行っていました。(当時の日本製造のレンズは概ね水晶で作られており、ガラス製はオランダより輸入の「青板ガラス」を加工したものでした)
ただ、元禄時代には江戸にも眼鏡屋さんが出現していたようで、凸レンズを利用した眼鏡絵(浮絵)などが一般大衆の間でも楽しまれていたようです。17世紀の終わり頃には、江戸や 大阪などで、眼鏡だけではなく「望遠鏡」や「顕微鏡」も作られるようになっていたようですね。
- 1551年(室町時代)
- ザビエルによって、眼鏡が渡来(どうも近眼用の眼鏡[凹レンズ]だったらしいです)
- 1613年(江戸時代:慶長18年8月4日)
- 最初の虫眼鏡が渡来。(『日本渡航記』イギリス東インド会社の船隊司令官セーリスが徳川家康への献上品として用意)望遠鏡も同時に献上されたみたいですね
- 1615~1624年頃
- 長崎の浜田弥兵衛がジャワで眼鏡製造の技術を習得、帰国→伝習を受けた生島藤七はさらに技術を磨き、虫眼鏡の製作にも成功
- 1620年頃
- 国産メガネが製造される
さてさて、それでは、江戸時代以降の日本のレンズ技術の発展はどういう流れになっていくのでしょう?
実は、当店の母体である「池田レンズ工業株式会社」の歴史にも関係するところなのですが...詳しくは 次項 にて。
大阪の地場産業としてのレンズ製造
当店の母体である「池田レンズ工業(I.L.K.)」は、創業自体は大正12年(1923年)なのですが、江戸時代から地元(大阪生野区)の地場産業であった「レンズ製造」に関わっていました。
レンズ製造は江戸時代に始まる大阪生野区の地場産業であり、当時は「虫めがね」よりは「老眼鏡のレンズ」としての凸レンズ製造が盛んでした。
幕末から明治~大正にかけて、大阪市生野区は「田島のめがねレンズ」に代表される日本一の眼鏡生産地だったのです。
出典:大阪市ホームページ/大阪市生野区:生野ものしり辞典『田島のめがねレンズ』は、"生野区よいとこ 田島のめがね"と明治・大正の古い本にも紹介されているように、大阪はもちろんのこと、日本中にその名が知られていました。
おおよそ140年程のむかし、田島村で生まれた石田太次郎は、丹波の国へ行って眼鏡製造の技術を習って帰り、有望なこの仕事を村人達に教えてまわり、田島村の家庭産業に発達しました。
大正2(1913)年、農村の田島村に電力が引かれて眼鏡専門工場が初めて生まれ、住民の努力によって日本一の眼鏡生産地になり、近東アジアや欧米諸国へも輸出されるようになりました。
当初の技術は「鍋の底で一枚一枚手磨する」という精度云々を言えるものではなかったようですが、第一次大戦の勃発によって日本の眼鏡製造の状況が変わります。
欧州からの眼鏡レンズや素地の輸入が途絶したために、自国でなんとか製造しないといけなくなった日本国内の眼鏡レンズ工業は、逆に急速に発展しました。
大阪生野区の眼鏡工場では、大正末期から昭和の始めにかけて電動機が取入れられ、従来の手磨は研磨機にかわり、生産力が急速に増大しました。昭和10年までにはほぼ現在の町工場での生産方式を確立、昭和12年には度付レンズの6~7割、サングラスの大半が海外(主にアジア圏)に輸出されるようになりました。
こうして大阪生野区での眼鏡レンズ産業は最盛期を迎えたわけですが、昭和16年頃からは第二次世界大戦の暗雲が立ちこみはじめ、戦時中は企業整備も整わず、主な輸出先だった大陸の大市場も失ったまま敗戦を迎えます。
出典・参考:大阪府立商工経済研究所(現:リサーチセンター)「輸出向中小工業叢書」三.小史戦後、レンズの素材は「硝子」から軽くて高性能な「プラスチック」に大変革を遂げます。そうなってくると、大規模な精密機材を持てない町工場には荷が重く...だんだんと大手メーカー(ニコンやHOYAなど)がレンズ製造の中心となり、町工場での硝子レンズ製造が主だった大阪市生野区のレンズ産業は下火となっていきました。
※現在も有名な「鯖江の眼鏡」は、レンズというよりも「フレーム」技術に特化しているイメージです。(最初は大阪から福井にメガネの生産技術が伝えられ、行政の支援を受けて発展しました。)
...しかし。実は池田レンズの「硝子レンズの虫眼鏡」は、未だに町工場で作っているのです!
I.L.K.製品に独特の懐かしい風合い(昭和レトロ感とでも言うのでしょうか...)が残っているものが多いのは、未だに町工場での職人によるレンズ製作やフレーム装着を続けているからかもしれません。(以前、テレビで特集を組んでいただいたこともあります。)
ただ、最近は職人さんの高齢化が進み、廃業される工場も増えてきました...。
折角なので、ここで町工場での「硝子レンズ」製ルーペの製造風景をご紹介いたしましょう。
硝子レンズ製の虫眼鏡(球面レンズ)の製造工程
- ガラス切断硝子板を適当な大きさに切断する。
- ガラスの溶解・丸め窯に入れ溶かし、丸く加工する。
- 荒削り(通称:ゼネ)レンズ研磨の最初の工程。研磨に適したレンズ曲面の形にする。
- 精研(通称:ダイヤ)表面を削って、ほぼ仕上げ寸法に。
- 研磨レンズ研磨の最後の工程。表面を磨いて面の精度を出す。
- 洗浄レンズの汚れを落とす
- フレームはめこみレンズにフレームを装着する
- 完成
以上、池田レンズ流「硝子レンズの作り方」でした。※あくまで弊社での工程ですので、一般的な工程とは異なる可能性があります。ご了承下さい。
こんな感じで、I.L.K.の温かみのある製品は作られております。今でも町工場で職人の手によって作られているレンズもあるんだな~ということを知っていただけたら嬉しいです(^^*)
レンズ表面の形状について
レンズの分類の仕方は色々あります。レンズの作用で分類すると、全てのレンズは光を収束させるか発散させるかで「凸レンズ」「凹レンズ」に分けられますが、ここでは「レンズ表面のかたち」での分類についてご紹介します。(レンズの素材での分類も出来ますが、それについては次項にて。)
球面レンズ
通常よく使われているレンズは、表面が球面で出来ている「球面レンズ」と呼ばれるレンズです。2つの物体を満遍なくこすり合わせることで精度の高い真球面を作り出せるので、作りやすく、最もポピュラーです。
「作りやすい」という最大のメリットがある球面レンズには、しかし問題があります。
宿命的に、収差と呼ばれる様々な見えにくさや、作成できるレンズの大きさに限界が存在するのです...。
しかし!それらの問題を乗り越えるために、人工的に特殊な加工を施された(表面が球形ではない)様々なレンズが作られました。ルーペ(虫眼鏡)製品でもよく利用されている2種について、以下でご紹介いたしましょう。
非球面レンズ
通常のレンズ(球面レンズ)は倍率が高くなったりレンズ径が大きくなるとレンズの端の部分から歪んで見えますが、その歪みを修正し、レンズの端までスッキリと見えるように開発されたレンズが「非球面レンズ」です。
例えば「非球面レンズ」仕様のルーペを通して新聞を広げて見た場合、普通のレンズよりも隅々まで歪みの少ないすっきりとした文字をご覧いただける、といった具合です。
「非球面」とは、真っ平らという意味ではなく、レンズ表面が完全な球面ではない(平面でも球面でもない曲面からできている)という意味です。
目的に応じた曲面を作って、人工的に「視界の歪み=レンズ周辺部の収差(球面収差や歪曲収差)」を少なくしているんですね。
もっと言うと、スネルの法則に従って厳密に光が1点に集まるように設計・製造した複雑な形のレンズです。放物面・楕円面・双曲面・4次曲面など。浅いカーブ設計のレンズでもより自然な視界を得ることが出来るようになりますが、設計も製造も難しいんですよ...。5倍以上の倍率のレンズになると更に補正が難しくなってきます。
ザックリ言うと「より自然な視界を目指した、人工的な工夫がいっぱいの高級レンズ」て感じでしょうか。
ただ、「非球面レンズ」を手持ちルーペとして使用するにはちょっとコツが必要です。
非球面レンズには表と裏があるので 表から見る こと、そして 適正な作動距離を守って使用する ことが大切!
適正な距離を守らずに何となくの感覚でルーペをかざすと、世界が上下逆さまに見えてしまうなど上手く拡大して見ることができません。普通の球面レンズでも同じことが言えますが、非球面レンズの方が(ピンポイントに計算されたレンズなので)更にシビアなのです。非球面レンズを使用した商品には説明書が入っていることも多いかと思いますので、適正な距離を保ってご使用くださいね。
レンズサイズ | ディオプター(dpt.) | 倍率 | レンズと見るものの距離(mm) | 目とレンズの距離(mm) |
---|---|---|---|---|
35mmφ | 50 | 12.5× | 15 | 40 |
35mmφ | 38 | 10.0× | 20 | 40 |
35mmφ | 28 | 7.0× | 29 | 60 |
50mmφ | 24 | 6.0× | 31 | 100 |
58mmφ | 20 | 5.0× | 36 | 140 |
60mmφ | 12 | 3.0× | 49 | 250 |
70mmφ | 16 | 4.0× | 45 | 150 |
100×50mmφ | 11.4 | 3.9× | 46 | 200 |
100×50mmφ | 7.6 | 3.0× | 59 | 250 |
100×75mmφ | 7 | 2.8× | 61 | 250 |
フレネルレンズ
一枚ものの通常のレンズでは、A4サイズの対象物の全体を拡大して見ることはできません。 ※凸レンズで大きなものを作ると非常に厚くて重く、しかも高価なものになるため、ルーペ製品としては製作・販売されていません。歪みが大きくなりすぎて、レンズ中央部分しかまともに見れなくなっちゃうという問題もあります。
そんな広い視界を得たい時に重宝するのが、下敷きのようなペラペラ(?)のレンズ、「フレネルレンズ(シートレンズ)」です。(当店取扱いの最大サイズ:298×249mm)
レンズの拡大に関わる表面の角度を保ったまま(球面非球面関わらずレンズの曲率だけを平面上に並べて)薄くしたプラスチック製のレンズを使用したルーペで、レンズ表面にレコード盤の溝のように円状にギザギザのスジが入っているのが特徴です。
この溝がクセモノで、環境によっては光を反射してしまって「見づらい」と感じる場合も出てくるわけですが...。
見え味の面では、通常の厚みのあるレンズと比較するとどうしても多少の白いにじみ等が生じ、レンズを通した視界のシャープさは落ちます。そして、中心部分から覗かないとちょっとズレた部分が拡大されて見えちゃったりする特性もあります...
しかし、レンズを大きく作成することができる唯一の方法のため、スペースと重量の節約、視界の広さを重視する場合には重宝します。
フレネルレンズは、元々は「灯台の光」を収束させて遠くまで届けるために開発されました。(考案者の名前がフレネルさんだったからフレネルレンズというそうです)
そもそもが像をきれいに拡大させる為に作られた訳ではなく、現在でも主に大型テレビのスクリーンや一眼レフのファインダーなどで「光を集めたり、焦点距離をいじったり」するために使われています。
顕微鏡や望遠鏡などの像の精細さが求められるシーンではお呼びでないレンズですが、簡易なルーペとしては必要にして十分な役割を果たしてくれます。
- Q.好きなサイズにカットは可能?
-
シートレンズの中心(同心円状に細かく溝が入っている中心の部分)さえ残していただければ、切断した状態でも対象物を「拡大」して見せることは可能です。
しかし、中心以外の端の部分などを切り取って使用した場合、光の屈折の仕組みにより、レンズの真下ではなく少し離れた部分が拡大されて見える状態となります。
切断する場合は「裏面(溝のない平面の方)」にアクリル用カッターなどで切り込みを入れ(レンズ表面はギザギザしていてうまく切り込みが入れられないかと思います)パキッと手で折っていただくという方法で、ご都合の良いサイズにカットしていただけます。
※基本的には既製品としてそのままのサイズでご使用いただくことを前提としているため、メーカーとして切断はお勧めさせていただくものではありません。自己判断・自己責任でのお試しをお願いします。
- Q.シールみたいに張り付けることはできないの?
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残念ながら出来ません。
シートレンズは対象物とレンズの間の距離を利用してものを拡大して見せる構造となっているため、対象物(拡大して見たい物)にシートレンズを貼り付けた状態ではご使用いただけません。(張り付けると拡大されません)
拡大して見たい物からシートレンズを離してご使用下さいね。
レンズの材質について
材質により重さや傷のつきやすさ、加工のしやすさなどに特性が出てきます。 基本的に「材質」で解像度の高さなどは決まりませんが、視界の色味や明るさは変わるため「見やすい」「見にくい」には関係してきます。
- 硝子レンズ
レンズ径が大きくなればなるほどずっしりと重さが増しますが、安心感はあります。手先に自信がなくなってきた年配の方や、やんちゃな小さいお子様、工場など傷が付きやすい環境で使われる方には、傷に強く頑丈な硝子製レンズが好まれます。
しかしプラスチックレンズと比較するとかなり重いので、レンズ面積の広い手持ちルーペなどよりは、小さいルーペ(高倍率ルーペ)や据え置き器(スタンドルーペ)などが適切な利用箇所でしょうか。
硝子レンズの特徴
- 傷つきにくい
- どっしりとした重量がある
- 基本的に高倍率のルーペに適する
- 白硝子レンズ
硝子レンズの中でも高級品が白(ホワイト)硝子レンズです。硝子レンズより透明度が高く、視界が明るくなるので見やすくなります。しかし、材料費がかかるため製品価格も硝子レンズに比べ高額になります(^^;)
白硝子レンズの特徴
- 明度が高く、視界がクリアに
- 傷つきにくい
- どっしりとした重量がある
- 材料費が高額→製品も高額
- プラスチックレンズ
プラスチックレンズ(アクリルなど)の一番の売りは軽いことです。手で持ち上げる必要のあるルーペや、作業用の顔に装着するタイプのルーペなど、軽くないと使い辛いルーペの素材として重宝されます。
デメリットは、傷が非常につきやすいこと。ハードコートが施されている場合は軽減されますが、やはり硝子製の頑丈さには敵いません。そして、安価な製品だと品質に問題がある(中心部が見づらいなど)ことも多い...等でしょうか。 ただ、傷が付きやすいということは「加工がしやすい」とも言えますので、細かい加工が必要な「非球面レンズ」や「フレネルレンズ」などの特殊なレンズには、素材としてプラスチックを利用します。
(ご年配の方は特に)プラスチックよりも硝子の方がよく見えて品質が良いと思われがちですが、材質がプラスチックでないと施すことができない高等加工技術が多くあります。高品質のプラスチック素材は、硝子よりも軽くて透明度が高いので高級品です。
しかし、プラスチックは熱にも弱いので、頑丈さを望むなら硝子製のレンズの方が安心感があるのは確かですね。
白硝子レンズの特徴
- 軽い(サイズが大きいレンズを作りやすい)
- 加工がしやすい(丸くないレンズを作りやすい)
- 傷がつきやすく熱にも弱い
- 価格はピンキリ
レンズの「コーティング」について
色んなレンズを光に当てると、色がかかって見えるものと、透明なままのものとがあります。色がかかって見えるものは、レンズに何らかのコーティングがされているのです。
※用途によってはコーティングが邪魔になることもあるので(薬品を使う場面などでは特に)コーティングなしのルーペを選ばれる業種の方もいらっしゃいます。
ここでは、ルーペ業界でよく使われている範囲での「コーティング」の種類についてご案内したいと思います。※サングラスなどによく使われる撥水コートやミラーコートなどには言及しません。
- ハードコート
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キズがつきにくくなるようにするための表面硬化用のコーティングです。
硝子レンズだとキズが付き辛いのであまり意識しません(というよりもハードコーティングの必要がありません)が、プラスチックレンズは傷がつきやすいので、それなりの価格以上のルーペになるとハードコートが施されている場合が多いかと思います。
- マルチコート[多層膜コーティング]
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レンズ表面の光の反射やチラツキを抑え、コントラストに優れたシャープな視界を得ることができるコーティングです。
業界によっては「(多層膜)反射防止コート」とも呼ばれていますね。 マルチコートが施されていると、蛍光灯の下で本を読む際も、蛍光灯の反射が抑えられた鮮明な視界でご覧いただくことができます。斜めから光に当ててコーティングの色を見ると、青や緑色に反射します。
レンズの収差
レンズの見え味を悪くする天敵、それが「収差」です。
人間にとってレンズの発明(発見)はとても有り難いものでしたが、光の「屈折」という特性を利用している(だけの)道具ですから、人間にとって都合の良い性質ばかり持っている訳ではありません。
例えば、レンズを覗いた時に周囲が歪んで見えたり、色がおかしく見えたり、形がボケていたり...経験ありませんか?
これらは光の性質そのものなので(波長によって屈折率が異なる=1点に光が集まらない等)、仕方ないと言えば仕方ないのですが、もっとハッキリ視認したい人間としては困りますよね。
と、このように理想的な「クリアな視界」を望む人間にとっては邪魔に感じるレンズの困った性質、それらを光学業界では「収差」と呼んでいます。
以下に収差の種類を挙げておきますね。ルーペ界隈では普段意識するのは「歪曲収差」「色収差」くらいなのですが...。それぞれのイメージ図なども後々用意できればと思います。
- 単色収差(ザイデルの5収差)...主にレンズの形状に起因
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- 球面収差...光軸上で光が一点に集まらない現象
- コマ収差...光軸の外で、点像が尾を引く現象
- 非点収差...同心円像と放射線像の結像点が一致しない現象
- 像面湾曲...像面が平坦でなく歪曲する現象
- 歪曲収差(ディストーション)...光軸の外で、物体と像が相似形にならない現象
(外側に膨らんだように見えたり、内側にへこんだように見える)
- 色収差...主にレンズの材質(屈折率)に起因
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- 軸上色収差...光の波長(色)によって結像位置が異なる現象
- 倍率色収差...光の波長(色)によって像の大きさが異なる現象
単色収差を抑えるために「非球面レンズ」などのレンズ、色収差を抑えるために 材質の違う凸レンズと凹レンズを貼り合わせたレンズ(宝石鑑定用のルーペでよく使われます) がよく使用されています。(ただ、どんなに頑張っても完全には補正できません)
「ルーペ」をより使いやすくするために、色んな工夫が施されているという事ですね。
「鏡」にまつわるエトセトラ
ルーペのことを日本語では「拡大鏡」と訳していますが、実は「拡大鏡」と漢字で書くと、同じ字面だけど全然違うモノを指している場合があります。なんだと思いますか?
そう、それは...「拡大ミラー(鏡)」!!
ホテルの鏡台付近にメイク用として設置されていることもありますので、ご覧になられたことがある方も多いのではないでしょうか。
凹面鏡を使ったカーブのキツい、近づいて見ると毛穴やシワが容赦なく拡大されて見える、でも離れて見ると歪んで見えて扱いにコツが要る...あのミラー(鏡)です。
ご存じない方に説明しますと、下の画像の左側の鏡のように「かなり大きく見えるけれど、離れて見るとちょっと歪んで見える」特殊な鏡が 拡大ミラー です。
ミラー表面が凹んだように湾曲しているのが特徴です。道路の交差点に設置してあるカーブミラーは膨らんだように(凸)湾曲していて広範囲が見渡せますが、その反対と考えると分かりやすいでしょうか。アイメイクなどの細かい部分のお化粧や、老眼の方の化粧用ミラーとして重宝されています。(スタッフNはド近眼なのですが、メガネなしでアイメイクできるので便利に使っています。)
さてこの拡大ミラー、「鏡」を「ミラー」と片仮名にしてしまえば別物と分かりますが、日本語で「拡大鏡」と書いてしまうと...ウムム。ルーペなの拡大ミラーなのどっちなの!?
まあこんな特殊な混乱は、当店ルーペスタジオ周りだけのお話かとは思います。何を隠そう、ルーペスタジオでは「ミラー(鏡)」も取り扱わせていただいているのです!
長年、幅広いミラー製品の品揃えを誇っているため、お客様の中にはウチを「ルーペ屋さん」ではなく「鏡屋さん」として認識して下さっている方もいらっしゃるのではないかと...。
さて、ではなぜルーペ屋(光学機器専門店)であるルーペスタジオでジャンル違いと思われる「ミラー(鏡)」を取り扱っているのでしょうか?
理由としては、ルーペスタジオの母体である「池田レンズ工業」が関係する大阪の地場産業には「レンズ製造」の他に「鏡(ミラー)製造」というのもありまして。(実は日本製の鏡は今や大阪でしか作っていないらしいのです。日本唯一のミラーの製造地ということですね。)昔から鏡メーカーさんとは大変ご懇意にしていただいています。
「硝子」の加工の方法によって「レンズ」と「鏡(ミラー)」が分かれますので、おそらく、江戸時代~戦前くらいまでは大阪近辺に「ガラス関係」の製造所が集まっていて近しい関係だった...のかもしれません。
そして、ルーペとミラー(鏡)はあながちジャンル違いという訳でもありません。 昔の人も「ルーペ」のことを「拡大鏡」と訳したくらい「光学といえば鏡」なんです。
そう実は、ミラー(鏡)は広い意味では光学機器!
「鏡」は「レンズ」と同じく、光を利用した道具です。
「鏡」は光の「反射」という振る舞いを利用しており(物体からの光を表面で反射している)、レンズは「反射」と「屈折」を利用しています。虫眼鏡(凸レンズ)を通してみているのは、拡大された「虚像」、鏡に映っている自分の顔も「虚像」です。
また、凹面鏡は凸レンズと同じく「光を集める」こともできます。
紀元前776年から始まったオリンピックの聖火台の採火は「凹面鏡」で行われている(実は現在進行形)ので、レンズよりよっぽど長いあいだ光を扱う道具として人間に貢献してくれていたわけです。
「鏡=mirror」の語源は「驚いて見る(mir-)」から来ているそうです。「レンズ豆」からのlensとは趣が違いますね...
太陽光だけで料理をする「ソーラークッカー」も、凸レンズで光を集めて着火させるよりも、太陽光をより広く集めて全体的に温められるし安価だということから、凹面鏡がよく使われています。
反射望遠鏡などの精密な光学機器の内部にも、鏡が利用されています。大きなレンズ製作は難しいですが、鏡だと比較的簡単に代用できるので光をいじる時には重宝されています。そうそう、顕微鏡のパーツにも鏡が使われていますよね...。
とりとめもなくなってきましたが、そういうわけでルーペ(凸レンズ)とミラー(鏡)はどちらも光学機器であり、割と近い関係にあります。
でも「拡大するための鏡」を意味する場合は、出来れば「拡大ミラー」と書いてもらった方が分かりやすい...。
そんなわけで、まとまりもない鏡(ミラー)に関する雑談でした。